「ペットは家族の一員」。そんな言葉を耳にすることが増えてきた。特にコロナ禍では自宅でふれ合う時間も増え、ペットにもっと快適な環境を用意したいと考えるようになった人も多いのではないだろうか。
ペット保険のアニコム損害保険の調査によると、ペットにかける年間支出額は増加傾向にあり、2022年は犬が36万円、猫が16万円だったという。ケガや病気の治療費、フードにお金がかかるのはもちろん、特に犬の場合はカット・トリミングへの支出も多いという。
犬や猫などのペットにとって幸せな状況が整ってきているようにも見える。その一方で「人間との関係性」という視点を取り入れた学問である「人間動物関係学」を長く研究してきた広島大学の谷田創(たにだ・はじめ)教授は「動物の生活が昔より良くなっているかというと疑問。最近は、人がペットに『求めすぎる』傾向がある」と話す。
人とペットが互いに幸せに生活するために必要なこととは何か。谷田教授に聞いた。
「癒しの道具」になっていないか?
──「ペットは家族の一員」という言葉をよく聞くようになりましたが、人とペットの関係性はどのような状況にあるのでしょうか?私が子どもだった昭和の頃は、犬は番犬として外で飼い、猫にもネズミを捕獲するという明確な役割が与えられていました。ペットショップで販売されていたのは小鳥で、犬や猫の生体販売はありませんでした。お金持ちならブリーダーから動物を購入してきて、そうじゃない人は野良犬や野良猫を飼うという時代です。
それがいまではペットを家族として扱うようになり、冬なら暖房が整い、夏はクーラーのなかで生活するようになりました。人間との距離は昔と比べて間違いなく近くなりました。ただ、近くなったからと言って、互いの関係性が良好になったのかというと、疑問が残ります。
昨今のペットブームで犬や猫を飼育する人が増えた一方、安易な気持ちで飼い始め、結果的に放棄してしまうケースもたくさん起きています。その結果、保護団体にしわ寄せがいき、運営が立ち行かなくなったり、動物虐待の検挙件数も増加傾向にあります。
安易な気持ちで飼い始めた人は一部だと思いますが、全体を俯瞰してみると、ペットのウェルビーング(身体的にも精神的にも良好な状態)は昔と比べてそれほど変わっていないかもしれません。
──コロナ禍ではペットと過ごす時間が増え、自分たちの癒しとして大切にする人も増えているようですが。
大切にすることは良いのですが、ペットに対して癒しを求めすぎる傾向があると思います。無意識のうちに動物が「癒しの道具」になっていないかを考える必要があると思います。
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