迷子になったペットを捜し出す「ペット探偵」がいる。1997年の創業以来、約3000頭のペットを見つけ出し、成功率は約7割というペット探偵の藤原博史さんは「中学時代、家を飛び出してホームレスのように野宿していた。だから、ペットたちがどこに身を隠しているかが分かる」という――。 【この記事の画像を見る】 ※本稿は、藤原博史『210日ぶりに帰ってきた奇跡のネコ ペット探偵の奮闘記』(新潮新書)の一部を再編集したものです。 ■家族5人と虫たちが暮らした6畳2間 私がどうして「ペット探偵」になったのか。その原点はやはり子ども時代にあったような気がします。1969年、兵庫県の神戸で生まれ育ち、もの心ついたときからずっと虫や動物に興味がありました。地面を這いずり回るようにして虫を探し、追いかけ、すっかり同化してしまうのです。 たとえば冬には木の皮をめくると、テントウムシなどが冬眠しています。すると自分もテントウムシになりきって、夜寝るときも毛布をかぶり「僕はテントウムシだ」と思い込んで眠る。地中で冬眠しているトカゲも掘り起こしては観察し、自分もその姿になりきってしまうような子どもでした。 家でもいろんな生き物を飼っていました。アリやチョウ、クモ、カブトムシなどあらゆる虫を捕まえると、お菓子の空き箱などを使って飼育するのです。 ただし、うちは公団住宅です。共働きの父と母、兄と妹の5人家族で6畳2間ほどの狭い団地暮らしでしたから、生き物を飼える場所はうんと限られます。子ども部屋の隅にこたつのテーブルを縦に立てかけて、斜めにできたすき間が私のスペースでした。その中はいつも虫だらけの状態だったのです。
■路上生活をする中学生 小学校を卒業するとき、文集には将来の夢として、「なにか動物にかかわる仕事につきたい」と綴っていたことを憶えています。しかし、その道は中学へ入ったころから、遠く離れていくことになりました。 ちょうど反抗期にさしかかったこともあり、小学校高学年には母親の財布に手をつけたり、夜中に神社に忍び込んで賽銭を盗んだり、悪ガキぶりを発揮していました。それが中学時代にはさらにエスカレートし、いわゆる不良少年に染まっていったのです。 授業をさぼって煙草を吸ったり、バイクで学校へ乗り付けたり。仲間うちで窃盗や喝上げをしたり、暴力沙汰になることもありました。当然ながら学校では問題児扱いされ、あるとき担任の先生が家庭訪問にやってきたのです。 先生は両親と私に向かって、「もう学校には来ないでくれ」ときっぱり言い、それから卒業式まで一度も登校することはありませんでした。家にも居づらくなりやがて家を出ると、ヤクザになった先輩のもとへ転がり込みました。そこにも居づらくなると、外で野宿するようになったのです。 夜は車の下で寝たり、屋根がある駐車場など雨風を避けられる場所を見つけます。閉店後のショッピングセンターに潜り込み、ペットコーナーの大型犬の小屋の中で寝泊まりすることもありました。冬場はそこで何とか寒さをしのげたのです。 ■ある晩の不思議な夢 結局、ほとんど野宿していたような生活は1年ほど続きました。中学三年生の終わりが近づくと、なぜか先生に「卒業式にはちゃんと出てくれないか」と頼まれ、卒業式だけは出席することになりました。そして、その当日、きっぱり気持ちを入れ替えたのです。 もうこんなバカな生活はやめて、ちゃんと普通に生きようと。自分でも好き勝手なことはやり尽くしてしまって、そろそろ飽きていたのでしょう。私はすっかり外見も変えて、きちんと仕事に就こうと心に決めました。 中学を卒業後、私は仕事を転々としていました。神戸ではお寿司屋、喫茶店、ホテル。その後、東京でしばらく働き、長野では住み込み寮がある部品工場や、宅配便の作業所で荷分けの仕事に就き、夜勤をつとめました。沖縄では近海でクルマエビを養殖する仕事に就きました。その時です。思いがけない人生の転機が訪れたのです。 ある晩のこと、私は不思議な夢を見ました。いつのまにか自分は「ペット探偵」となり、行方不明になったペットたちを捜索していました。そして大活躍をしている──。まだ「ペット探偵」などという言葉も知られておらず、そんな仕事があるとは思ってもみません。それでもなぜか、ものすごくリアルな夢なのです。
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February 22, 2021 at 07:16AM
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