親が亡くなっても泣かなかったのに(人前では)、ペットが死んだ時は大泣きしたという話をよく耳にする。犬は人類と最古の友、猫は人につかず家につくなどといわれるが、大切な時間を共に過ごしたペットの死に接すれば、犬派・猫派に関係なくペットロスになるに違いない。
子供の時分に、捨てられていた仔猫を拾って家族と揉めて泣いたり、ペットショップで仔犬を見初めて嬉しかった経験を持つ人も多いと思う。
三世代家族は今は昔、核家族・少子化が当たり前、ひとり親家庭も増える豊かな国・現代ニッポン。死に場所も家の畳の上ではなく病院や介護施設のベッド。子供たちは「人の死」にふれる機会がほとんどないまま大人になってしまうのが現実だ。
そんな社会ではペットの存在意義は大きい。元気だったペットからは人生の喜びと命の輝きを学び、ペットを天に送るときは刹那や諦観、悟りにふれる。私たちはペットを通じて自分以外の存在を深く愛するということを経験していた――と気づかされるのかも知れない。
本書はお坊さんが説法する堅苦しい話がメインでない。エンドレスに捨てられる赤ちゃん猫、保護・捕獲と里親探しの苦労、獣医通い、シェルターからの脱走事件、保護施設の人間模様など、「生の現場」の話が一杯。かといって深刻に描くのではなく、擬音・擬態語を交えた筆致には思わず笑ってしまうおかしさがある。漫画家のアシスタントをしていたことも下地にありそう。
商社のOLから一転、大型犬シベリアンハスキーとのライター稼業、愛犬と過ごした黄金の日々、壮絶な別れを経て、高野山で得度した経歴の持ち主ならではの内容となっている。ペットを死なせてしまったと悔やむ飼い主の気持ちは涙なしでは読めないし、その心の浄化の仕方や、カウンセラーとしての視点は勉強にもなる。
なぜだかあなたの元に来て渡してくれた命のバトン。ペットとの出会いの意味、そして別れの苦しみは、また別の世界の扉を開き、あなたの人生に新たな気づきをもたらしているに違いない。
今はペットを飼っていなくても、過去に天にお返した経験がある人には琴線に響く体験談が満載。納得したり反発してみたり反応は人それぞれ。今まさにペットと貴重な時間を暮らしている幸せな人は手に取らなくてよいともいえるが、いずれ読みたくなる時がやって来る。
電子書籍は便利だけれども、紙の本をめくって読むことをお勧めしたい。お手元にハンカチもお忘れなく。
本書は平成二十六年四月刊『続・ペットがあなたを選んだ理由』を改題の上、カバーを新装したものです。
・著者プロフィール
塩田妙玄(しおた・みょうげん)
高野山真言宗僧侶/心理カウンセラー/生理栄養アドバイザー/陰陽五行・算命師。前職はペットライター、東京愛犬専門学校講師、やくみつるアシスタント。その後、心理カウンセリング、生理栄養学、陰陽五行算命学を学び、心・身体・運気などの相談を受けるカウンセラーに転身。より深いご相談に対応できるよう出家。飛騨千光寺・大下大圓師僧のもと得度。高野山・飛騨で修行し、現在高野山真言宗僧侶兼カウンセラー。個人相談カウンセリング、心や身体などの各種講座、ペット供養などを受ける。
著書に『だから愛犬しゃもんと旅に出る』(どうぶつ出版)、『ペットがあなたを選んだ理由』『捨てられたペットたちのリバーサイド物語』『ねこ神さまとねこおやじ』『ペットたちは死んでからが本領発揮』(ハート出版)、『40代からの自分らしく生きる体と心と個性の磨き方』(佼成出版社)。原作に『HONKOWAコミックス ペットの声が聞こえたら』シリーズ〈生まれ変わり編〉〈奇跡の楽園編〉〈あなたのやさしい手編〉〈虹の橋編〉〈愛の絆編〉〈保護犬・保護猫奮闘編〉〈命をつなぐ保護活動編〉〈福縁の保護猫・保護犬編〉(画・オノユウリ/朝日新聞出版)
・書籍情報
書名:たからものを天に返すとき
著者:塩田妙玄
仕様:四六判並製・336ページ
ISBN:978-4-8024-0150-0
発売:2023.04.06
本体:1,800円(税別)
発行:ハート出版
書籍URL: https://www.amazon.co.jp/dp/4802401507/
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