Saturday, May 11, 2024

(フォーラム)高齢者とペット:1 一緒に:朝日新聞デジタル - 朝日新聞デジタル

 いまや「家族の一員」とも言えるペットですが、高齢者の飼育をめぐっては様々な議論が起きています。高齢者とペットの関係はどうあるのがいいのか、読者とともに考えます。まずは、猫2匹と暮らす92歳の映画監督・山田洋次さんの体験と思いを聞きました。

 ■犬や猫、死ぬと悲しいのにまた迎えてしまう わずらわされる時間、消えると寂しいんですね 猫2匹と暮らす映画監督・山田洋次さん

 いま2匹の猫と暮らしています。名前はハルとサイ。2匹を連れてきた長女が、ストラビンスキーの「春の祭典」から取って名付けました。小さい頃はよく遊んでやりましたが、10歳を超えてもうすっかり落ち着いています。

 愛想がいいのはハル。僕が帰宅すると、どこに行っていたのか確認するようにすり寄ってきます。夜寝る時も、いつも僕のベッドにくる。夜中にトイレで起きるとついてきて、ドアの前で待っている。部屋に戻るとまたついてきて、ポンと布団の上に飛び乗る。サイのほうはいつもしれっとしていますね。夜もどこで寝ているのか、よくわからない。

 世話の役割分担は特になくて、家にいる者が随時。僕も気付いたらウンチを拾い、猫砂を取り換えます。ただ、エサをやる時は注意が必要。ニャーニャー言ってエサを要求してくるんですが、それを信用しちゃいけない。家族に「まだやってないの?」とよく確認したうえで、やるようにしています。

 考えてみると、僕のまわりにはいつも犬や猫がいました。子どもの頃は満州(中国東北部)でも犬を飼っていたし、戦後しばらく山口県の宇部にいた頃もパピーという名の犬を飼っていました。当時は放し飼いでね。犬小屋もなかったんじゃないかな。昼間、犬は勝手に散歩に出かけていく。夕方、名前を呼ぶと家に戻ってくる。

 大学生の時には寮の一室で猫を飼っていました。白猫で、卒業試験の日にお産を始めたんです。面倒を見るために、あやうく落第しかけました。無事に卒業はできたわけですが、卒業するということは、その子とお別れしないといけない。寮の守衛さん夫婦に養子に出しました。

 松竹に入ってからしばらくは団地住まい。犬飼いたいな、猫飼いたいな――とずっと思っていた。子どもの手が離れた頃に戸建てに引っ越し、久しぶりに飼えるようになった。それで最初に迎えたのが、ペキニーズのデコと白猫のピーです。犬と猫、つかず離れず、意外と仲良くやっていたのが印象に残っています。

 その後、犬はダックスフントのハービー、シバイヌのタケ、雑種のクマゴロウと飼ってきました。猫はいずれも雑種のスージー、ドベ、トトと代を重ね、現在の2匹に至ります。そういえば、犬の散歩はたいてい僕の係。タケやクマは元気で、力が強くて。ずいぶん遠くまで連れて行かれた。僕も若かったのです。

 ちなみに、いまのハルとサイ以外はすべて僕の命名。スージーは栄養失調でやせ細った雌猫だったので「骨皮筋右衛門(ほねかわすじえもん)」ならぬ「筋子」でスージー。トトは映画「ニュー・シネマ・パラダイス」から。ドベは、いま思うとひどい名前だけど、なんでだったかなあ。

 犬や猫をじっと見ていると、ホッとする。彼ら彼女らは、目を慰めてくれる。凝り固まった気持ちをほぐしてくれる。家庭生活の中で、夫婦でも親子でも、それなりに緊張感がある。犬や猫がいると、それをやわらげてくれるというか、助けてくれるというか。そんなことを求めて、ずっと一緒に暮らしてきたんじゃないかな。

 犬も猫も人間の生活とは関係なく、全く別の音を鳴らすように生きているから、良いんでしょう。互いに緊張することはないし、一方で人間と一緒に喜んだり興奮したりすることもなく、そういう時に妙に冷めていたりする。そうかと思えば、時々勝手に興奮していたりもする。人間とはおおよそ異なる関係性の、別の生命体。人間の言葉が絶対に通じない存在が家の中にいるのが、良いんでしょうね。

 ただ通常、飼い主より先に死んでしまう。そうすると、妻や娘たちが深く悲しむ。それを見ているのが僕はつらくてね。逆に言えば、妻や娘が深く悲しむから、僕のほうはかえって客観的になれて、耐えられるところがある。僕はちゃんとしていなければ、と思う。妻も娘もいなければ、男ひとりで悲しまなきゃいけなくなる。これはかなりみっともない姿ですね。

 死ぬと悲しいのに、また犬や猫を迎える。家に動物がいない状態はあまり考えられないです。いないほうが、明らかに楽になるんですよ。エサを用意しなくていいし、ウンチも片付けなくていい。でも、そういうことにわずらわされる時間が消えてしまうことが、寂しいんですね。咳(せき)をしたと心配し、食欲がないと不安になり、動物病院に連れて行く。そういう面倒なことにわずらわされていたいんだな。相手が人間だったら、そんなのんきなことは言っていられないけど。

 犬や猫は人間の子どものようには成長しない。最期までわずらわせてくれる。子どもは大きくなって、オヤジより偉くなったり批判したりするけど、犬や猫は絶対にそんなことはない。まあ犬や猫に批判されるようになったら、人間終わりかも知れないけど。(聞き手・太田匡彦

     *

 やまだ・ようじ 1931年生まれ。東大卒業後、松竹に入社し、61年、映画監督デビュー。代表作に「男はつらいよ」シリーズ、「幸福の黄色いハンカチ」など。

 ■地域との繋がり出来た/万が一の時にサポートを

 アンケートは269回答が集まり、50代以上の回答が7割を占めました。選択問の回答グラフは次回以降に掲載します。結果はhttps://www.asahi.com/opinion/forum/200/で読むことができます。

 ●いなくなったら魂抜ける 飼っているのは雑種、35キロのワンコ。10歳です。一人暮らしなので、ワンコがいなくなったら魂抜けてしまいそう。(東京、女性、60代)

 ●まるで子どものよう 夫婦ふたりきり、まるで子どものように可愛がっています。おとなしい子なので、迷惑はかけません。そばにいる事で、なごんでいます。(大阪、男性、70代)

 ●高齢者ほど動物を 犬を飼っている。毎日の散歩で人と会話をする。地域との繋(つな)がりが出来た。高齢者ほど動物は飼った方が良いと思う。ただ、病気や死亡の際、新しい飼い主探しをする態勢は必要。(東京、女性、60代)

 ●「家族」との出会いに喜び 保護犬と楽しい日々を送ってます。数十年ともに過ごした犬たちに感謝し、新しい家族との出会いに喜び、楽しんでいます。子どもの了解、理解をもらえ、幸いでした。(鹿児島、男性、70代)

 ●社会としてサポートを ペットと暮らすことで受ける恩恵が最も大きいのは高齢者。動物が好きで大切にする高齢者が、ペットを飼える社会になって欲しいと思います。他方、私は動物保護団体でボランティアをしていますが、高齢の飼い主の病気、入院、死亡等により、飼育放棄されるケースは少なくありません。万が一の時にサポートするしくみを。(千葉、男性、60代)

 ●皆で元気に暮らしたい 主人71歳、私66歳です! 18歳の保護猫と暮らしています。ニヤータ君はとても元気。食欲もあり、気が向くとかけっこ、かくれんぼ、ジャンプ。いつまでも元気でいてほしい。(愛知、女性、60代)

 ●今の猫で最後かな いつも犬や猫がいる環境で育ち、家庭を持ってからも当たり前のように一緒に過ごしてきました。60歳を過ぎると、今飼ってる猫で最後かなぁと思っています。(大阪、女性、60代)

 ■《取材後記》いまや「家族」、諦めずに飼える社会に

 犬の飼育数の減少傾向が顕著になった2010年代半ば、ペット業界は高齢者に犬を飼わせよう(買わせよう)という働きかけを積極的に行うようになりました。その際に多用したのが「犬を飼うと健康寿命が延びる」というメッセージです。「犬はサプリメントだと思えばいい」などと言い放つ業界関係者も出てきました。

 こうした動きに、私は危機感を抱きました。14、15歳まで延びた犬猫の平均寿命を考えると、高齢者が子犬や子猫を買えば、最期まで飼いきれる可能性は低い。飼育放棄されて自治体に持ち込まれたら、殺処分です。その意味で、一人暮らしだったり家族の支援が得られなかったりする高齢者がペットを飼い始めることに、私は否定的でした。

 その頃、全国の自治体で、飼い主の病気や入院・入所、死亡を理由に飼育放棄される犬猫が目立ち始めます。自治体や動物愛護団体は、高齢者への保護犬・保護猫の譲渡に消極的になりました。

 結果、なにが起きたか。保護犬・保護猫の譲渡会に出向いた高齢者が年齢を理由に門前払いされ、その帰りにペットショップで子犬や子猫を買ってしまった――という話をよく聞くようになったのです。全くの悪循環と言えます。一方、長く飼ってきた犬や猫を亡くし、年齢を考えて「次はもう飼わない」と諦める人も増えてきた。

 犬猫の推計飼育数は15歳未満の子どもの数を超え、いまや「家族の一員」。考えてみれば、年齢を理由に家族を得ることを諦めるというのは、実に悲しいことです。本紙くらし面にも先日、連載「ペットと高齢者福祉」が掲載されましたが、急速に高齢化が進む日本において、この問題は重要なテーマになっています。

 以前に取材したNPO法人ペットライフネットの吉本由美子さんは言います。「信託制度などを活用して高齢者も安心してペットを飼える社会をつくりたい。人と動物が共生する社会の実現に、高齢者だからこそ果たせる役割がある」

 私も少し考え方を変えてみました。高齢者がペットと暮らすことを諦めずに済み、同時にペットも幸せにできる方策があるのでは――。そんな社会のあり方を模索するほうが合理的かもしれない。そう考え、この取材を始めました。太田匡彦

     *

 おおた・まさひこ 1976年生まれ。アエラ編集部在籍中の2008年に動物問題の取材を始めた。元保護猫3匹と暮らす。著書に『「奴隷」になった犬、そして猫』など。

 ◇アンケート「就活で『オヤカク』どう思う?」「知っていますか? マンスプレイニング」をhttps://www.asahi.com/opinion/forum/で募集しています。

 ◇来週19日は「高齢者とペット:2」を掲載します。

Adblock test (Why?)



"ペット" - Google ニュース
May 11, 2024 at 10:00PM
https://ift.tt/8SMmn2p

(フォーラム)高齢者とペット:1 一緒に:朝日新聞デジタル - 朝日新聞デジタル
"ペット" - Google ニュース
https://ift.tt/iw46G39
Shoes Man Tutorial
Pos News Update
Meme Update
Korean Entertainment News
Japan News Update

No comments:

Post a Comment