Thursday, February 20, 2020

固定観念にとらわれない天ぷらの魅力は奥深さと凝縮力 - auone.jp

八丁堀の名店「てんぷら小野」のてんぷら

 セリがあしらわれた揚げ餅を口に含むと、茸の豊かな香りが鼻孔をすーっと抜けていった。セップ茸とジロール茸から出汁をとったスープに揚げ餅を浮かせたひと皿──。初めて出会う料理に気持ちは高ぶり、なんともいえぬ幸福感に満たされた。

 天ぷらから大きく踏み出した料理とも言えるが、八丁堀「てんぷら 小野」の志村幸一郎さん(44)は、固定観念にとらわれない。

「もともと天ぷらはヨーロッパから来たもの。そこに原点回帰したいという思いがあって、フランスの茸で綺麗に出汁をとったんです。そこに山形県の酒田でつくられた餅を揚げて入れ、庄内のセリを合わせる。餅のかわりに白子でもいい。天つゆで味を調えているからちゃんと和風になっているし、とにかく旨い。そんなオリジナルなものも大切にしていきたいんです」

 もちろん、エビ、キス、シイタケ、山菜といったオーソドックスな天ぷらの素材に対しても志村さんは真正面からぶつかっていく。「茸と揚げ餅」は、いわば変化球だが、天ぷらの可能性を狭めたくない、というのが志村さんの志なのだ。数種の油を合わせて完成させた天ぷら油、60種類をそろえた塩、ミネラル分の少ない軟水でとる天つゆの出汁、ばらつきの少ない粉。そのすべてが試行錯誤の末に志村さんがたどり着いたオリジナルの素材だ。

 志村さんが天ぷらの世界に入ったのは2006年のこと。食品系の商社マンとして働いていた志村さんだったが、「てんぷら 小野」の長女との結婚を機に、跡を継ぐことを決断する。

 修業を続ける中で転機が訪れたのは、いまから約10年前のこと。客に誘われ、山形県庄内地方にある井上農場を訪れたことで、一気に食材や人間関係が広がっていったのだ。とりわけ、庄内地方の地産地消を積極的に推し進め、独自のスタイルで注目を浴びていたイタリアン「アル・ケッチァーノ」の奥田政行さん(50)との出会いが大きかった。

「奥田さんには『世界一の美食の街』と言われるスペインのサン・セバスチャンに連れて行ってもらったり、いろいろと教わった。食材に合わせた塩の使い方をはじめ、シンプルな調理の大切さ、科学的な理論もたくさん学ばせてもらった。中でも影響を受けたのは、お客様や食材の生産者への思いやり、人間関係のつくり方でした」

 新鮮で旬な庄内の食材が存分に入手できるようになったことで、志村さんの天ぷらの幅は広がっていった。

「この世界に入ったときは、天ぷらはなんて限られた料理法なんだろうと思っていた。でもそれは、単に自分の表現力がなかっただけ。いまは、なんて奥深い料理なんだと思っています。たとえば、牡蠣フライは水分が残っていてジューシーだけど、牡蠣の天ぷらはほどよく脱水され、適度な水分が残っているという違いがあります。その結果、閉じ込められた香りは濃くなり、味も凝縮され、より旨味を感じるようになる。この凝縮力が天ぷらのひとつの魅力。そしてそれは、庄内の魚や野菜のような力のある素材だとより強くなるわけです」

 この日、庄内産のナメコを使った面白い天ぷらが出てきた。揚げたナメコの上に、醤油出汁に漬けたぬめりの残るナメコをのせた一品だ。

「揚げ物と生食感のコントラストが口の中で広がる面白さ、です。揚げたミョウガに生のミョウガをのせても旨いんですよ。こんな可能性も天ぷらにはあるんだ、ということなんです」

●てんぷら 小野【東京・八丁堀】
東京都中央区八丁堀2-15-5 第5三神ビル3階 完全予約制
ランチ(火~金):11時半~13時半(L.O.)/ディナー(月~金):18時~21時(L.O.)
定休日:土・日・祝、不定休あり
料金:ランチコース:5000~1万3000円、ディナーコース:1万2000円、1万8000円
※外税
※サービス料は別途10%
※キャンセル料は前日50%、当日100%

■撮影/太田真三、取材・文/一志治夫

※週刊ポスト2020年2月28日・3月6日号

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February 21, 2020 at 05:35AM
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