世界中の台所を訪れて現地の人と料理をする台所探検家・岡根谷実里さんが、各地の家庭料理をお届けします。
大根おろし器に、ゆで卵カッターと、よく作る料理には「そのためだけ」の道具があります。そこで今回は、キューバ、ネパール、ヨルダンのお家にお邪魔して見つけた、ご当地感あふれる料理の便利グッズを紹介します!
キューバの「バナナつぶし」はカスタネット風
キューバは、中南米に浮かぶ島国の一つ。年中あたたかくて、ラリッツァさんの近所には毎日バナナ売りがやってきます。
そのバナナを使った「トストーネス」はキューバの食卓の定番。甘くない調理用バナナを輪切りにし、揚げて、つぶして、もう一度揚げたものです。
手早くつぶすラリッツァさんの手元には、カスタネットを思わせる木の道具が。熱々の揚げバナナを素早く平らにしてくれます。 パタン、パタン、リズミカルに次々つぶしていきます。
この道具の名前は「トストネーラ」。このためだけに作られた様子に、人々のトストーネス好きを感じます。
表面カリッと中はじゃがいものようにほくほくなトストーネスは、そのままおやつやおかずにも食べるのですが、今日はスープの具にします。 「私はカリカリよりも、スープを吸ってとろっとした感じがもっと好きなの」とラリッツァさん。食べ方にもいろんなこだわりがありそうです。
ネパールの「ころんとかわいい圧力鍋」は豆専用
次は、ネパールの台所で出会ったかわいい道具。ヒマラヤ山脈の山麓に位置するネパールは、冬はしんしんと冷え込みます。
ロシナさんの台所に欠かせないのは、ころんとかわいい形の圧力鍋。豆のスープ(ダール)を作るのに使います。「おかずはいろんな野菜を使うんだけどね、でもダールは毎日変わらず作るから」。圧力鍋はしまわれることなく、ダール専用鍋として定位置に座り続けています。
この土地では昔から圧力鍋は必需品で、作りもとってもシンプル。日本での圧力鍋は割と近年普及した調理器具なイメージもありますが、標高が高い土地で豆をやわらかく煮るには、圧力の助けが必要です。
調理が完了すると、けたたましい音と蒸気で知らせてくれます。毎日あたたかくてほっとするスープを作ってくれる、元気な働き者です。
ヨルダンの「サラダカッター」は子どもの遊び道具に!?
最後はヨルダンの家庭から。
「サラダをお願い」と話しかけるのはファティマさん。7歳の娘さんがお手伝いします。
娘さんが取り出したのは、漬物容器のような透明の箱。ふたを開けると金属の格子がついていて、そこに薄切りにしたトマトやきゅうりをのせてパタンと蓋を閉じます。角切り野菜が下に落ちて、どんどんサラダができあがっていきます。
お母さんが火の前で忙しくする間、娘さんは楽しげにパタンパタンとサラダを作っています。 このサラダは、「アラビア風サラダ」などの名で呼ばれるもので、毎日のように食卓にのぼります。塩とレモンだけのさっぱり味で、油やスパイスの多い中東の食卓の名脇役です。
毎日のように作るのだけれど、だからこそ小さな角切りをし続けるのは退屈な仕事。その単純作業を子どもの遊びに変えてしまう便利な道具に、たくましさすら感じるのでした。
くり返し作る料理で少しでも楽したいと思う気持ちは、遠い国の人たちも一緒。なんだか親しみを感じつつ、気分が乗らない日の料理も道具一つで楽しくなれるのかも、と思うのでした。
岡根谷実里さん
台所探検家。世界各地の家庭の台所を訪れ、世界中の人と一緒に料理をしている。これまで訪れた国は60カ国以上。料理から見える社会や文化、歴史、風土を伝えている。
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