※リアルの生物の写真が出てきます。苦手な方はご注意ください!</B>
こんにちは!生物ライターの平坂です。
『あつ森』でオイカワが欲しいのになぜか一向に釣れません。レインボーフィッシュやネオンテトラは釣れるのに……。こんなことってあります!?
……いきなり愚痴ってしまってすみません。では気を取り直して本題へ進みましょう。
先日、『あつ森』をプレイしているとコイが釣れました。
リュウグウノツカイだのオタマジャクシだの変化球が多い『あつ森』にしては実にスタンダードな魚だと安心したものです。馴染みのある、フツーの魚がきたなあと。
……本当にフツーの魚だと思います?コイって。
たしかにいっぱいいますよね。そこらの川や池に。
…おかしくありません?だってその辺泳いでるコイって60センチとか80センチとかありますよね。下手すりゃ1メートル超えの大ゴイもたまに見かけます。そういえば『あつ森』内での魚影もでかいですもん。
そんな大型魚がドブ川に、ため池に、なんなら防火水槽にまでウヨウヨしてるってちょっと異常だと思いませんか!?小魚ならまだしも!!
……そうです。コイって実は超タフな魚なんです。
まず、なんといってもその悪食さ!彼らは本当になんでも食べるんです。水草も食べる。昆虫も食べる。小魚も追いかけ回して食べる。人が流した残飯も掃除機のように吸い込んで食べる。
果てはなんとザリガニやタニシやシジミまでバリバリと噛み砕いて食べる!!
他にここまで好き嫌いなく何でも食べる川魚がいますか!?いや、いない!!
ん?あのひょっとこみたいな口をしたコイがザリガニや貝を噛み砕けるわけないだろうって?
おお、良い質問です!そうです。コイのおちょぼ口には歯が一本も無いんです。なのにどうやってあんなフードファイトをこなすのか?
これは『あつ森』でも博物館長のフータさんが解説してくれますが、コイは口ではなく喉に歯を持っているのです。
これは「咽頭歯」といい、人間でいうところの臼歯のような形をしています。これで丸呑みした獲物をゴリゴリ噛み砕くわけですね。ああ、オソロシイ…。
そして水質の汚染にもきわめて強く、他の魚がろくに生息していないようなドブ川でも平気な顔して泳いでいます。
さらに長寿!寿命は一般的に数十年程度と言われ、なんと200年以上も生きた個体さえいたとか。さらに繁殖力も旺盛ときている。そらデカいコイがウヨウヨしてるのも納得ですね…。
だってタフすぎて死なないのに増えはするんですもんね…。
さらにさらに!食べても美味い!
中国では高級食材ですし、アユやウナギ以外の川魚を食べる文化が希薄な日本であっても「コイこく」や「コイの洗い」などといったコイ料理は各地に存在し続けています。
ちゃんと泥抜きをしてから調理するのが前提ですけどね!
いやー、知れば知るほどコイってスゴイ……。
もはやちょっと不気味に感じるほどスゴイ……。
でもあらためて見てみると……。コイという魚は実に均整のとれた魚体をしています。
ふくよかながらも美しく流線型を描くボディ。
大きくやわらかなヒレ。
穏やかなおちょぼ口には威厳をちょい足しするヒゲ。
背は茶黒く、腹は金色で慎み深さときらびやかさをほどよく兼ね備える…。
おお。見れば見るほど川魚の代表にふさわしい存在な気がしてきます。
コイって、カッコイーッ!
繁殖力旺盛で食べてもおいしく、その上カッコイーッ!のですから、食用&観賞用に古くから盛んに養殖も行われてきました。
その過程で生まれた色彩変異のコイ同士を掛け合わせて生まれたのがニシキゴイなわけです。『あつ森』でも普通のコイとは別枠扱いで登場しますね。
ニシキゴイの歴史は200年にも渡るとされ、今日に至るまで数えきれないほどの品種が生まれています。その中にはなんと2億円(!)もの値がつくものもあるといいます。ひょっとすると世界一高価な動物はコイなのかも…!?ス、スゴイ…。
※ちなみに『あつ森』内ではコイが300ベル、ニシキゴイが4,000ベルで取引されます。その差なんと約13倍!!同じ魚なのに!
しかし!何でも食べられて、タフで、みんなに愛されているコイだからこそ!厄介な問題が起きがちでもあるのです。
世界中の、本来彼らが生息していない水域に放流されまくり、バシバシ分布を広げてしまっているのです。
貝類や水生植物を食い尽くして水質の悪化を招き、最終的に「コイしか住めない川」を作ってしまうこともあります。そのため、国際自然保護連合(IUCN)が定める「世界の侵略的外来種ワースト100」にまで選出されています。
というわけで、現実世界では釣り上げたコイをあちこちの川へむやみに放流しないようにしましょう!
■著者紹介:平坂寛
Webメディアや書籍、TV等で生き物の魅力を語る生物ライター。生き物を“五感で楽しむ”ことを信条に、国内・国外問わず様々な生物を捕獲・調査している。現在は「公益財団法人 黒潮生物研究所」の客員研究員として深海魚の研究にも取り組んでいる。著書に「食ったらヤバいいきもの(主婦と生活社)」「外来魚のレシピ(地人書館)」など。
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