<米国での黒人差別への抗議は、東南アジアの先住民差別にも火を放った>
新型コロナウイルスの感染拡大が現在のインドネシア政府、社会の最大の課題であることは間違いない。だが、それとは別の問題が、平均的インドネシア人の心底に潜むある意識を揺れ動かしている。
この国の人びとの琴線に触れたのが、全米を中心に今や欧米各国や日本でも連帯の輪が拡大している米警察官による過剰制圧で黒人が死に至った事件で、それを端緒にして広がっている「黒人への差別」という人種問題である。
インドネシアのSNSではハッシュタグ「#Black Lives Matter(黒人の命は大切だ)」にちなんで、「#Papuan Lives Matter(パプア人の命は大切だ)」が静かに広まり、民族的、人種的そして宗教的少数者でもあり、軍や警察という治安当局によっていわれなき迫害、暴力、殺害などの人権侵害などに直面しているパプア人への「差別」の存在がクローズアップされているのだ。
インドネシアのパプア問題とは
インドネシアの東端、世界で2番目に大きい島とされるニューギニア島の東半分は独立国パプアニューギニアだが、ほぼ直線に近い南北の陸の国境を隔てた西半分はインドネシア領のパプア州、西パプア州というパプア地方である。パプア地方の住民はメラネシア系のパプア人でキリスト教徒が大半を占める。
インドネシアの人口約2億6000万人の約88%を占めるイスラム教徒に対しキリスト教徒は約9.8%、約40%を占めるジャワ人に1.2%のパプア人と、極めて少数派の存在である。
そうしたことに加えて遠隔地である山間部などで暮らすパプア人の伝統的民族衣装が、男性は「コテカ」と呼ばれるペニスサックだけ、女性は下半身を覆う腰蓑状のものだけという点も、多数派インドネシア人からみてパプア人を「未開民族」「生活・教育水準が低い民族」として差別と嘲笑の対象とすることが多いのが現実である。
インドネシア人の中には政治家、知識人も「パプア人はインドネシア領であることに反発しておらず、共生を願っている」と公然と話す人が多い。しかし長年の人権侵害に苦しめられ虐げられてきたパプア人は、インドネシア人には滅多に胸襟を開かない。またインドネシア人に忖度することで平穏に生きる術を身に付けざるを得なかったことに思い至るインドネシア人は極めて少ない。
米国での事件をきっかけに拡大する人種差別反対運動がインドネシア人の心の中で改めて今、差別意識が問い直されようとしているのだ。
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June 09, 2020 at 06:30PM
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