Saturday, June 19, 2021

「ペットのための義足」の普及が、3Dプリンターの活用で加速する - WIRED.jp

脚が3本のイヌについて考えてみてほしい。そうしたイヌを飼っていたり、公園や動画で目にしたりしたことがあるかもしれない。四肢が不均衡でもたくましく生きるイヌは、脚が4本あるイヌと比べても人の心を動かすものだ。

「人はどこか能力に違いのあるペットに気持ちが引かれるものなのです」と、脚を切断したペットを支援するウェブサイト「Tripawds」の共同設立者であるルネ・アグレダノは語る。「その気持ちは、ただ『助けたい』という感情によるものだと思います。そうしたペットにも、そうでないペットと同じように幸せな生活を送るチャンスをもってほしいと思うのです」

こうした助けたいという思いは、義肢というかたちで表れているようだ。動物が複数の脚を失っている場合は、なおさらである。

それに義肢を装着しているペットの動画は、それ自体が“癒やし系”のジャンルとしても確立されている後ろ足に義足をつけたネコや、車輪のついた板に乗ったカメの動画がその一例だ。こうした動画は、わたしたちのFacebookに繰り返し流れては、暗い知らせが多いニュースフィードに癒しをもたらしている。

義肢装具の業界は、3Dプリント技術によって大きな進歩を遂げてきた。3Dプリントされた義肢は軽量で価格も比較的手ごろで、しかも無限にカスタマイズできる。実際に医師が3Dプリンターでトリのくちばしをつくったり、高校生たちが放課後にイヌ用の義肢をつくったりしてきた。

とはいえ、すべてのペットの義肢が画一的につくられるわけではない。また、障害のあるペットの支援コミュニティや一部の獣医師からは、簡単につくれる義肢の急増が動物たちに意図せぬ悪い結果をもたらすかもしれないとの懸念の声も上がっている。

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PHOTOGRAPH BY DIVE DESIGN

義肢調整の難しさ

イヌが脚を失う理由はさまざまだ。生まれつきの場合もあるし、クルマにひかれたり、がんが進行して切断を余儀なくされたりする場合もある。

3本脚の動物を愛する人たちにお決まりのセリフに「イヌは3本脚にスペアの脚を1本もっている」という言葉があるが、これはある意味では正しい。獣医師などの専門家からなる団体「Colorado Veterinary Specialist Group」で動物のスポーツ医学とリハビリテーションを専門に担当する獣医学博士のテラサ・ウェンドランドは、イヌは脚の欠損にとてもうまく順応するのだと説明する。

しかし、失ったものを補おうとする過程で合併症を発症することもある。関節炎などの歩行障害を抱えるイヌや高齢にとって、動かせる脚への追加の負荷が重篤な問題につながりうるのだ。

「脊椎の可動性に大きな影響が出てしまうのです」と、ウェンドランドは言う。「残りの脚の可動域を変えてしまうことになるので、非常に不自然な方法で歩かなければなりません」

こうしたとき適切につくられた義足なら、脚の元の可動域を取り戻せる。3本脚のイヌが4本脚になって走り回る様子を見ると感動するだろう。

ただし、義足の製作はひと筋縄ではいかない。動物の整形外科と義肢製作を専門とするOrthoPetsとイヌの義足への適応を支援しているウェンドランドは、義足の製作は時間と技術的なノウハウを必要とする複雑なプロセスなのだと語る。

人間用の義足と同様、動物の義足もそれを使う個体に合わせて個別に調整する必要がある。そのイヌの大きさや重さ、脚の長さ、姿勢、歩き方などを考慮しなければならないのだ(ドーベルマン向けの装具はダックスフントには合わない)。それゆえ、動物の整形外科医たちはは個体の動きを観察し、ほかの脚と連動するように義足を成形している。

成形の手法はさまざまだが、標準的なプロセスではまずギプスで脚の型をとり、動物の写真や動画を参考に義足を設計し、耐久性のある熱可塑性樹脂や金属などを使って義足を組み立てていく。その後、義足が個体にフィットするまで細かい部分を手作業で調整していくのだ。このプロセスには数週間かかる場合もある。

また、脚のどれだけの部分に義足が必要かという問題もある。ウェンドランドによると、脚のできる限り低い位置に義足をつけることが理想だという。脚全体を切除していて目に見えて義足を取り付けられる場所がない場合は、義足づくりの難易度が大きく上がる。

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義足製作を効率的に

これまで多くの業界が、3Dプリントを製造革命として歓迎してきた。義肢業界もそのひとつである。

関連記事:3Dプリンターが「義足」の民主化を加速する

ニュージャージー州に拠点を置くデザイン企業Dive Designは、3Dプリントが脚全体を切断した際に使う股義足の製作のソリューションになると考えた。同社の提携先であるBionic Petsは、その名の通りペット向けのアクセシビリティ技術を開発している企業だ。創業者であるデリック・カンパーナは、長きにわたってペット用義肢を手作業でつくりあげてきた(彼はブリガム・ヤング大学のテレビチャンネルで放映されている「The Wizard of Paws(肉球の魔法使い)」という番組も制作している)。彼は2020年、ヴァージニア州にある自身の研究所にDive Designを率いるアレックス・トールとアダム・ヘクトを招き、義足製作のプロセスをどう改善できるか話し合った。

「たびたび議論になったのは、股義足を開発する必要性でした」と、トールは振り返る。カンパーナがつくっていた義足はあまりに多くのリソースを必要とするうえ、使えるようになるまでに時間がかかりすぎていたのだ。加えて「無駄が多く、金銭的に採算がとれていなかったのです。これがすべての始まりでした」と、トールは話す。

最初のステップは、3Dモデルの作成に適したソフトウェアを見つけることだった。ペンシルヴェニア州立大学で機械工学と生体工学を専攻し、当時Dive Designでインターンをしていたフリオ・アイラ4世は、nTopology(エヌトポロジー)という会社が開発したモデリングソフトウェア「nTop Platform」の学生向けライセンスをもっていた。そこで、Dive Designのほかの社員たちはこのライセンスに「ただ乗り」して作業したという(現在はライセンスをきちんと更新して使っている)。

nTop Platformでは3Dモデルを作成し、それが現実世界でどう機能するかシミュレーションできる。つまり、ヴァーチャルで耐久試験を実施し、実際に印刷する前に義肢の動きを再現できるのだ。

このソフトウェアの使い道は、ペットのためのプロジェクトだけではない。nTopologyは米国政府の国防を請け負うロッキード マーティンの出資を受けており、国防技術を開発するレイセオン・テクノロジーズのような企業向けの光学部品の設計も手がけている(なお、義肢をイヌの身体にフィットさせる複雑なジャケットは、Landau Design+Technologyという3Dデザインを手がける別の会社によって設計、カスタマイズされた)。

「最も重要なことは反復です」と、ヘクトは語る。「何か新しいことに挑戦するとき、すぐに完璧なアイデアに至ることは決してありません。常に試行錯誤の繰り返しです。だからこそ、実際にモノをつくってテストするプロセスを早く回せるようになればなるほど、よいソリューションが得られるのです」

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Dive Designの3Dプリンターを使った義肢製作のプロセスは、標準的な外科用装備のつくりかたと似ている。イヌを観察、計測してモデルをつくり、組み立てるのだ。それが3Dプリントの登場により、エンジニアは従来の義足製作では不可能な方法で迅速に成果物をつくり変えられるようになった。関節部分や接続部などの特定の部分が機能していないときも、ほんの数時間でつくり直せるのである。

3Dプリントが可能にした迅速なトライ&エラーは、特に若い動物にメリットをもたらすとBionic Petsのカンパーナは語る。若い動物の場合、体の成長に合わせて多くの装具が必要になることがあるからだ。「新しい装具が必要になっても、型をとりなおしたり設計し直したりする必要はありません」と、カンパーナは言う。「ファイルのサイズを直し、もう一度プリントすればいいのですから」

Dive Designで義肢のモデリングと開発を担当しているアイラ4世は、「義足製作に夢中になっています」と語る。「わたしたちはまだ、3Dプリント技術や身の回りのものに対する考え方を学び始めている段階にすぎません。これらの技術がもつ可能性には驚かされます」

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「誰でもつくれる」という誤解

熱意はあっても、労力と専門知識は高くつく。獣医学博士のウェンドランドは、自身がこれまで見てきた義足の価格は1,800~2,000ドル(約19万~22万円)程度だと語る。一方、Bionic Petsが手がける義足も高額ではあるが、下腿義足は850ドル(約93,000円)、股義足は1,750ドル(約19万円)とより購入しやすい価格だ。

こうした価格帯は、動物病院で高額な治療費に肝をつぶしたことのある飼い主にはおなじみかもしれない。だからこそ、安価な義肢を製作する技術は間違いなく魅力的なのだ。

ウェンドランドのもとには、愛犬用や学校のプロジェクトの一環として義足を自分で3Dプリントしたいという相談が寄せられるという。しかし、家庭用の3Dプリンターで扱えるような素材は、専門的につくられた義足の基準を満たさない可能性が高い。

「3Dプリントに関して少々懸念しているのは、誰でも義足をつくれるという考えが広まり始めていることです」と、ウェンドランドは語る。「こうした考えは問題につながります。3Dプリント技術に可能性を感じ、動物を助けたいと思うことは素晴らしい。しかし、専門家として義足をつくっている人たちはきちんと訓練を受け、多くのことを考慮しながら義足の製作にあたっているのです」

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Instagramの動画に映る義足の動物たちは愛らしく見えるだろう。しかし、補助用具が外科的な知識をもつ専門家の手で細心の注意を払ってつくられ、適切にカスタマイズされていなければ、補助用具を使っていないときよりもひどい損傷を与えるリスクがある。

例えば、車いすを使うイヌがいるとしよう。車輪が後ろにありすぎると、背骨に力がかかりすぎる可能性がある。前にありすぎると、頻繁に顔面から前に倒れてしまう。体に合わない補助用具を使うと、骨が皮膚とぶつかるところに痛みやただれが生じ、結果的に脚の内部に損傷を与える可能性がある。

Dive DesignやBionic Pets、OrthoPetsといった義足メーカーは、動物の整形外科医と密に連携して義足が動物を傷つけないようにしている。また、ペット用義足はまだ新しい分野であり、何がうまくいって何がうまくいかないのかを決定的に示す研究は多くない。獣医や義足メーカーは、いまのところ臨床経験に頼るしかないのだ。

さらに、義肢の種類にかかわらずリハビリは避けて通れない。イヌがリハビリをして義足に順応するには数週間、あるいは数カ月かかることもある。そうなると動物病院にかかる回数が増え、費用もかさんでしまう。

ウェンドランドは、これまでDive Designの義足を扱ったことはないが、脚全体をサポートする同社の義足にも需要はあるだろうと言う。しかし、すべての飼い主にとって重要なのは、選択肢を知っておくことだ。

「状況次第では、費用を良質のリハビリに投じたほうがいい場合もあるのではないかと思います」と、ウェンドランドは言う。「イヌが義足なしでも歩けるよう、例えば副次的な筋肉の痛みを和らげる鍼治療なども考えられますよね。もちろん、残っているほかの脚にも問題がある場合は確実に義足を検討します。義足製作は、3Dプリント技術の素晴らしい使い道だと思います」

※『WIRED』による義肢の関連記事はこちら。3Dプリンターの関連記事はこちら

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