水中ドローンによる撮影や点検、調査、スクール運営などを手がけるスペースワンと、愛媛県宇和島市を本拠点に水産事業を営むダイニチは、2021年6月22日〜23日にマグロとマダイの養殖場で、水中ドローンを活用する実証実験を共同開催した。
水中ドローンで「網の確認頻度」は2倍に
ダイニチは、設立から約40年の老舗水産企業。水産養殖用飼料の製造販売、水産加工販売、養殖業者のサポートなどを手がけ、養殖業に広く深く関わってきた。
品質へのこだわりから2020年には、同社が関連会社の内海水産とともに生産するマダイで、世界初となるACS(Aquaculture Stewardship Council:水産養殖管理協議会)の国際認証を取得している。
そんなダイニチと内海水産は、2019年よりマダイの養殖場において、網の点検や魚の状態チェックにCHASINGのGLADIUS MINIを活用してきた。両社が養殖するマダイは、出荷前の数ヶ月間、天然マダイの生息水域と同じく水深約30mまで生簀を沈めて、身が引き締まって色も鮮やかな高品質ブランド"深海養殖鯛"として販売されている。
ダイニチで水中ドローン導入を牽引した業務推進課の寺坂哲司氏は、水中ドローン導入を検討した経緯をこう語る。
寺坂氏:生簀の周りにまれにサメが出没するなど、潜水作業には危険性もあるし、毎日のように潜って、網の点検や死魚の回収をしていると、ものすごく疲れる。出荷して、餌やりして、さらに潜ると本当にくたくたになる。若い頃はまだいいけれど、年をとると身体が持たない。
また、内海水産の織田太一社長は、水中ドローン導入の効果をこう語る。
織田氏:水中ドローン導入前は、だいたい月に1回くらい、水深30mまで潜って点検を行っていた。水中ドローンを使い始めてからは、月1回どころか2週間に1回は、網や魚の状態を確認できるようになった。
特に、帯状の赤潮が網の下の方で広がると、水上からは見ても分からず、養殖魚が大量に死んでしまうリスクがあるため、身体的負担なく確認頻度を上げられるのは非常に助かる。
CHASING M2 PROを活用
本実証での水中ドローン活用の方向性は2つある。1つは、これまでのように水中ドローンに搭載したカメラで、潜らずに水中を「見る」こと。網の破れや付着物の状況確認、死魚が発生しているかどうかのチェック、生簀とアンカーを繋ぐロープが切れてしまったときのアンカーの捜索など、さまざまな用途が期待された。
使用した機体は、CHASING M2 PRO。2021年春に発売されたばかり新機種だ。4Kカメラと高輝度LEDで鮮明に網と魚を映し出し、水深約15mのマグロの生簀、水深約10mと30mのマダイの生簀ともに、十分に「目の代替」となることを確認できた。
水中ドローンの機体のケーブルがマグロの口に引っかかる、水底の泥の巻き上げによって視程が悪化するというハプニングにも見舞われたが、そうした事態を回避すれば網の点検には十分活用できそうだ。
印象的だったのは、潜航させたときに、両社がこれまで使用してきたGLADIUS MINIと比べて「潜航速度が格段に速い」と評する声が上がったこと。出荷作業を含む日常業務で使うとなると、水中ドローンだけにかまっているわけにはいかない。目標地点までスピーディに到達できる潜航速度も、業務効率上の重要な指標だと感じた。
水中ドローン活用のもう1つの方向性は、機体に追加で装備できるようになったアームを使って、潜らずに水中のものを「掴む」ことだ。特に期待が寄せられたのが、死魚の回収。水中ドローンを潜らせれば死魚の発見はできるのだから、その場で回収できればベストである。
CHASING M2 PROは先端の形状が異なる複数のアームが用意されており、ケーブルの対荷重は約100kgと頑強だ。残念ながらマグロの成魚はサイズ的に現状のアームで掴むことは難しそうだったが、水中の浮力を考慮すると重量的にはマグロでも回収可能である。
死魚回収にチャレンジする試行錯誤
本実証では、死魚回収へのチャレンジがとても印象的だった。もともと、法律で養殖場の死魚を毎日回収することが義務付けられている南米チリで、CHASING M2を使って死魚を回収している事例があり、本実証はこれに倣いたいとの目算もあった。
寺坂氏:死魚はいないと予めわかっていれば、潜らなくていいのだから、機械化できるところはできるだけしていきたい。水中ドローンで死魚を発見できるのだから、さらにその場で回収できれば潜らなくてよくなり、現場スタッフの負荷を低減できる。
本実証では、水中ドローンにオプション製品のアームを装備して回収を試みたほか、市販品の網を機体にくくりつけてすくうという方法にもチャレンジ。マダイの養殖場において、網底に沈んでいた死魚を発見し、そのまま網で回収した。
現場スタッフからは、死魚回収の方法や器具について、さまざまなアイディアが飛び出した。
- この大きさの生簀なら、機体をセッティング後、積み込み、生簀に到着後、すぐ潜航させて、死魚がいればすくう、そんな感じで業務に活用できそうだ
- アームで掴めるなら、いちいち機体を引き上げるよりも、生簀の中に回収用の籠を入れておけば、最後に籠を引き上げるだけで楽そうだ
- アームの先端が輪っかの形状だと、スルッと抜けてしまいそう。顎の下を掴んだらどうか
- アームの先端をモリにすれば、突き刺すだけで回収できるのでは。あるいは、スパイクみたいにギザギザを鋭くしてもらえれば掴みやすそうだ
- 網のふちは、もう少し柔らかいもののほうが良さそうだ
新しい機体をいかに工夫して使うか、真剣な眼差しだ。現状では、養殖場における死魚回収に特化したオプション製品は市場にまだないが、こうした現場での試行錯誤が突破口になるのではないか、そう感じた実証実験であった。
Writer : 藤川理絵
ライター/ファミリーキャリアコンサルタント。「テクノロジーと働き方の変容」をテーマに、ビジネスモデル・人物・イベントの取材やインタビュー記事を執筆中。文系でもわかるデジタル革命がモットー。趣味は旅とドローンと茶道。「家族でキャリアを考える」セミナー&イベントも企画・主催。
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