Saturday, February 5, 2022

無名でも美味の魚ニベで老舗うどん店が新天丼始めました - 朝日新聞デジタル

 県内外に支店を展開する老舗のうどん店が、水揚げされても市場には出回らない低利用魚と呼ばれる魚を活用した新メニューの提供を始めた。きっかけはコロナ禍。崖っぷちに立たされた経営を、「原点回帰」で復活させるのが狙いだ。

 三重県内を中心に全国で38店舗を展開するうどん店「歌行燈(うたあんどん)」(本社・桑名市)。新しく売り出したメニューに「ニベ」を使っている。スズキに似た大型魚。東海地方ではあまりなじみがない魚だったが、近年は県沿岸でも定置網によくかかるようになっていた。ただ大きすぎて扱いづらく、主に水揚げ地で消費されていた。

 歌行燈は、このニベを天ぷらにした天丼膳の提供を始めた。甘辛い天丼のタレに合った、あっさりした癖のない白身が売り。1月中旬から売り出したところ、常連客から評判を得たという。

 ニベとの出会いには、5代目社長の横井健祐さん(42)の思いがあった。

 新型コロナウイルスの感染拡大は、飲食業界に大きな打撃を与えた。歌行燈も売り上げは激減。かつては海外にも店を置いていたが、今では最盛期の6割ほどとなる38店まで縮小を余儀なくされた。

 横井さんは飲食店の存在意義を自らに問い直した。「知名度を上げ、売り上げを伸ばし続けることは飲食店にとって幸せなことなのか」

 創業144年。創業当時からの経営理念である「企業の発展を通して地域貢献をする」への原点回帰を考えた。そんな中、桑名市のベンチャー企業が手がける、「丘から海の課題を考えるプロジェクト『丘漁師組合』」を通して知ったのが、ニベなど利用されていない魚の存在だった。「こんなにおいしい魚が使われていないなんてもったいない」

 低利用魚の活用はフードロスの削減や、コロナ禍で同じように収入が減った漁師の収入向上になる。漁業の持続可能性を支える一歩にもつながる、何よりも未知の味でお客さんに喜んでもらえる――。商品開発を指示し、主に県南部で採れたニベを活用した新メニューの導入に踏み切った。

 新メニューは桑名駅前、大山田、四日市ときわ、名張、鈴鹿の県内5店舗で食べることができる。横井さんは「これからは地域の新たな食材とお客さんとの出会いに力を入れていきたい」。

 今後は、他にもある低利用魚と地域の食材を組み合わせた新メニューを開発、提供するつもりだという。(大滝哲彰)

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