Saturday, June 6, 2020

から揚げの新定番!? サクッとジューシーな豚肉の香り揚げ - 読売新聞

誰もやっていないことに僕は憧れる。ふたを開けてみると大抵のことは何かしらの時代にどこかの誰かが考えていたり手掛けていて、自分のオリジナルなんてものはないことに気づかされるのだけれどね。思い込みでも勘違いでもいい。それさえあれば、何かをやり始めるとき、アクセルを踏む足に力が入るのだ。

たとえば、から揚げをしようかな、と思い立つとする。普通にやるなら鶏もも肉をひと口大に切ることになる。でも、僕は違う。「から揚げ=鶏肉」だなんて、いったい誰が決めたんだ? 誰も揚げたことのない食材を揚げてやる! と思う。でもね、結局アイデアが湧かないから豚肉を買ってくるのさ。ちょっとだけ変化球を投げていることに満足して、塩こしょうをふる。

しばらく肉を常温に置いておくと火が入りやすくなると同時に塩が肉の中に浸透していく。厚さ2センチの肉だから、10~15分よりも、30分~1時間、置いたほうがいい。肉の中まで塩の味わいが浸透するからね。実は「塩こしょう」という組合せにも不満がある。「肉には塩こしょう」だなんて、いったい誰が決めたんだ? 誰も使ったことのないスパイスを使ってやる! でもね、思いつかないからバジルを合わせることにしたのさ。

バジルの葉をちぎっていると、枝の上から下にだんだん葉が大きくなっていくのがわかる。ちょっとまな板に並べてみたりする。豚肉も左右の端から真ん中に向けて、だんだん肉の幅が広くなっているのがわかる。1センチ間隔に切って長い豚肉と大きなバジルをセットにしたりして、独りでニヤニヤする。「豚肉とバジルとの大きさのバランスを比較する」なんて、誰もやっていないんじゃないかな、なんて思いながら。

きっと小さいころから可もなく不可もなく、普通の子供だったことが自分の中にコンプレックスを生んだんじゃないだろうか。破天荒な友達に興味を持って注目していたし、はみ出したことを平気でやってしまうような同級生に憧れもした。校舎の窓を割ったことも、盗んだバイクで走り出したこともない僕には、思い当たるような反抗期もなかった。だから今は、日常の中に既成概念へのささやかな抵抗を見つけることを楽しみにしている。オトナの反抗期だ。

実は、僕が油で揚げようとしている豚肉は、“とんかつ用”と書かれた肩ロース肉である。とんかつ用の肉でから揚げを作る。この背徳感がたまらないよね、とワクワクしながら、から揚げ粉をまぶしているのだ。バジルの葉を豚肉と一緒に丸めるのもそうだ。フレッシュなバジルの葉を油で揚げちゃうなんて、不良生徒のやることだぜ! とドキドキしながら油に投入する。バジルの香りを楽しみたいなら、火を通さずもんだり刻んだりペーストにしたりして、揚げたての豚肉とからめたほうがいい。「それなのに……」という反抗的な行為にゾクゾクする。

高温の油の中で豚肉とバジルが次第にほどけていくのが見える。丸めた豚肉が加熱によって広がっていくから、バジルの葉はまるで巣箱から解き放たれた小鳥のように油の中から羽ばたき出ようとするのだ。この時の香りがすばらしい。料理の香りを楽しむのは、食べるときだけとは限らない。自分で作るだいご味のひとつは調理途中の香りを満喫できることだ。ほらほら、そんなこと言った人、他に誰もいなかったんじゃない?

ジュワジュワと出る泡に慣れてきたら、残ったバジルの葉をそのまま鍋に投入してみる。素揚げというやつだ。「油がはねるかもしれないから、よい子はマネしない方がいいよ、俺はわるい子だからやっちゃうけどね」とかブツブツとつぶやきながらニマニマする。バジルの葉の方が短時間で火が入るから、豚肉よりも先にバットに上げておくといい。むちゃなことをしているようで、ところどころはきめ細やかに丁寧に。

豚肉が揚がったら、器に盛り付ける。生のトマトなんかを合わせると、豚肉のサクッとジューシーな味わいが際立って感じられるからいい。バジルの香りは生の状態よりも落ちてはいるけれど、パリッとした食感は揚げなきゃ体験できない。いやぁ、最初から最後まで実にスリルのある料理だった。これで終わると思うなよ。小さな反抗はまだまだ続くぜ。次は“しょうが焼き用”の豚肉でとんかつを作るのさ、ふふふふふ。

◆豚肩ロース肉の香り揚げ
【材料】
豚肩ロース肉(厚さ2センチ) 大1枚
塩こしょう 少々
バジルの葉 20枚程度
から揚げ粉 大さじ1強(適量)
揚げ油   適量
【作り方】
豚肉に塩こしょうをふってしばらく置き、1センチ幅に切ってバジルの葉を挟む。から揚げ粉をまぶして180℃の油でこんがりするまで揚げる。バジルの葉は途中で(肉よりも先に)バットにあげておく。

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水野仁輔
水野仁輔(みずの・じんすけ)
カレー&スパイス研究家

 1974年静岡県浜松市生まれ。99年に男性12人の出張料理集団「東京カリ~番長」を結成。各地で食のライブキッチンを開催するほか、世界のスパイス料理やカレーのルーツを探求中。著書は40冊を超え、近著に「水野仁輔 カレーの奥義」(NHK出版)、「スパイスカレー事典」(パイインターナショナル)、「いちばんやさしいスパイスの教科書」(パイインターナショナル)、「幻の黒船カレーを追え」(小学館)、「水野仁輔のスパイスレッスン」(中央公論新社)など。2016年にスパイスをレシピとともに届ける「AIR SPICE」を設立。

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