Thursday, October 6, 2022

介護生活は突然に ペットは家族(6) - 河北新報オンライン

 前回までのあらすじ 2005年12月、岩手県一関市川崎町の主婦後藤美由紀さん、夫の泰彦さんら家族は幼くかわいい柴犬ナナに一目ぼれして、飼い始めた。だがシャンプー失敗に始まって早々にしつけに挫折し、夢描いた室内飼いを半年で諦める。ナナは犬小屋生活の孤独から徐々にやさぐれていった。11年、夫妻の出身地石巻市が東日本大震災に見舞われた。17年秋、泰彦さんは「心の震災復興」のために、ほっこり系インスタグラム投稿を始める。その写真の主役がナナだった。

常堅寺境内の柵に顔を押しつけるナナ=2019年12月31日

柴犬ナナと住職さん夫妻の5871日

 2019年師走。ナナが来た15回目の記念日クリスマスイブが過ぎ、あっという間に大みそかが来た。就職先から帰省した結衣さん(25)は学生時代のようにナナと寺の外へ散歩に行く。一回りしてきて境内に戻ると、一角にある柵の間にナナは顔を挟み込んだ。つり目の変な顔になっている。「ナナ、面白過ぎるー」。結衣さんと居合わせた美由紀さん(51)、泰彦さん(59)は笑った。

 実はナナが寺の外へ散歩に出たのは、この日が最後になった。以降、日に日によろよろと歩くようになっていった。考えてもみれば、ナナは既に15歳、人間に換算すると75歳だ。この時3人は気が付かなかったが、ナナはかなり疲れ切って、フェンスに重たい頭を預けていたのだろう。

 翌20年2月12日、プロ野球の名将野村克也さんが亡くなった翌日。その話題で世の中は持ち切りだった。だが、夫妻にとってそれ以上に忘れられない出来事が起きる。

 夫妻は所用から帰宅した夕方、犬小屋の前で横たわるナナを見つけた。暖かく差し込む夕日にさらされながら、小さく丸くなっている。穏やかな早春の光景に見えた。

 「気持ちよさそうに寝てるねー」。美由紀さんは声を掛けながら近づいた。だが全く反応がない。何だか不自然な姿勢にも思える。ナナは小刻みに体を振るわせていた。何かの意思表示をしているようだ。「えっ、ナナ、どうした?」。美由紀さんの頭に信じたくない最悪の事態がよぎる。

 ナナは四肢で立ち上がることができなかった。夫妻は急いで段ボールに毛布を敷いて寝かせ、家の中に救急搬送する。

室内の囲いの中でおむつ姿で眠るナナ=2020年6月

 介護生活は突然始まった。

 ナナは3日目にようやく水を飲み始め、徐々に食事もできるようになった。夫妻はほっとした。ここでいったん急場はしのいだと思えた。サンルームに泰彦さんお手製の囲いを設け、ナナ専用の居場所にした。

 次に想定された問題がトイレだ。ナナはかつてトイレを覚えられず、外での犬小屋生活になった。室内で飼うなら当然使い捨ておむつの準備は必要だ。

 「これからはペット介護用品が必要になるね」。美由紀さんは早速ホームセンターへ向かった。今までペットフードの棚しか見てこなかったため、あまりにも多種の介護用品が陳列されていることに驚く。おむつにしても、大型犬用か中型犬用か? 紙製か布製か?など選択を迫られる。「まずはこんな感じかな」。取りあえず、そろえておくべき品々を買って帰った。

よろよろと歩く犬のナナ

 しかし、トイレ問題は困難を極めていく。

 いざおむつを着用させようとなった時は、基本2人がかりだ。まず泰彦さんが10キロあるナナを持ち上げ、注意をそらす。その間に美由紀さんが手際よく寝床の敷物を取り換え、おむつを装着させる手順だ。泰彦さんがお勤めで不在の時は、美由紀さん一人で気が遠くなりそうな作業をした。

 何とかうまくはかせても、ナナははき慣れないおむつの違和感を嫌がり抵抗した。美由紀さんが家事で少し目を離している隙に、ナナは囲いの中でおむつをかみちぎった。散乱するのが紙だけならまだいい。中身まであちこちに飛び散ることも、ままあった。さらにそれをナナが踏み散らかし、惨状は囲いの中に収まらなかった。汚れはナナの毛並みにも所々付着した。

 美由紀さんとしては風呂場に連れて行って汚れを洗ってあげたいところだが、できなかった。ナナは過去に泰彦さんのシャンプー失敗によって水浴び恐怖症になっていた。だから使い捨てシートでナナの体をきれいに拭いてあげることしかできなかった。美由紀さんは泣きながら、ナナを見つめてつぶやいた。

 「しょうがないよね、ナナは全然悪くないし。でも、この生活がいつまで続くのかな…」

 今までけが一つなく、病院とも無縁だったナナに老いは大波として訪れた。それも夫妻が覚悟していたよりはるかに早く、突然に。だからお漏らしが増える日々、尊厳を保てなくなっていくナナがわびしく見えた。それでもペット介護生活は始まったばかり。しかも初めてで、手探りだ。美由紀さんは先行きにただ不安が募った。(年齢は当時)

 ペットとは単なる愛玩の対象か、それとも「家族」と言える存在なのか。2022年1月の臨終間際、おばあちゃん犬ナナは涙を流して、介護生活を続けた飼い主後藤夫妻に感謝した。ナナが後藤家で過ごした15年来の歩みを通じ、ペットと飼い主の関わりを紹介する。毎月ナナの日(7日)に更新する。
(一関支局・金野正之、ツイッターのアカウント名は「金野正之@河北新報『今こそノムさんの教え』『ペットは家族』の人」)

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