Tuesday, October 24, 2023

ペットは人を幸せで健康にするのか? 科学的証拠の現状 - 日本経済新聞

イヌは長い間、人間の最良の友と呼ばれてきた。その主な理由は忠誠心、愛情、サービス精神といったイヌの性質だ。米国ミシガン州グランドラピッズ在住のシャロン・リードさんはイヌの献身的な愛情を実感している一人だ。「夫の死後、愛犬が最も頼りになる存在となり、愛犬のおかげで、つらい時期を乗り越えることができました」

ペットを飼うことが健康にもたらす利点として最も広く知られているのは、ストレスに対処しやすくなること、共感や思いやりの精神が育まれること、「孤独の害から守られる」ことだと米パデュー大学の動物生態学教授で、同大学ヒューマン・アニマル・ボンド・センターの所長を務めるアラン・ベック氏は話す。

これらの利点は、米精神医学会の最新の調査にも反映されている。この調査では、86%の飼い主が、ペットがメンタルヘルスにおおむね良い影響を与えていると感じており、88%の飼い主が、ペットを家族の一員と見なしていることがわかった。

しかし、ペットが飼い主のメンタルヘルスや幸福にどれくらい貢献しているかは、学者の間で議論となっているテーマでもある。ほとんどの学者が認めている利点もあるが、一部の人が信じているだけで科学的証拠に欠けるものもある。

ふれあいが体と心の健康によい影響

ペットと飼い主のふれあいが生活の質を高めることは、広く認められている利点の一つだ。近年の研究でも、イヌとの遊びで気分が向上し不安が軽減されること、イヌへの読み聞かせが学習障害など読む力に問題を抱える子どもに有益な効果があること、ペットを飼うことでストレス関連ホルモンであるコルチゾールのレベルが下がることが明らかになっている。また米心臓協会は、ペットを飼うと身体活動レベルが上がることなどを利点として挙げている。

実際、リードさんは愛犬のオーストラリアン・シェパードとの散歩が唯一の運動時間になるときもある。米疾病対策センター(CDC)によれば、ペットと一緒に身体を動かすと「血圧、コレステロール、中性脂肪の数値を下げる」効果があるという。

また、動物と頻繁にふれあうことで得られるメンタルヘルス上の利点についても、幅広いコンセンサスが得られている。

「自分に対して評価や批判をしてこない親友を持つことには身体的、精神的な健康に対するストレスを和らげる効果があります」と米バージニア・コモンウェルス大学の精神医学教授で、同大学ヒューマン・アニマル・インタラクション・センターの所長を務めるナンシー・ジー氏は説明する。

動物は飼い主の学業成績まで高める可能性がある。「2つの研究(1つは6〜8歳の子ども、もう1つは大学生が対象)で、イヌとのふれあいによって実行機能が高まるという結果が得られました。実行機能とは、私たちが計画を立て、課題をやり遂げることを可能にする機能の総称です」とジー氏は話す。

高齢者や精神疾患などを抱える人にも

特定の精神疾患や発達障害を抱える人を含め、さまざまな人にとってペットを飼うことの効果が示されている。

2018年に学術誌「Human-Animal Interaction Bulletin」に発表された研究では、セラピードッグが子どもの注意欠陥多動性障害(ADHD)に関連する不注意、ソーシャルスキルの低さといった症状を軽減するのに役立つことがわかった。また、動物をなでるとコルチゾールのレベルが下がることを示す研究や、ペットを飼うと自閉症の子どもの社会的行動が増えることを示唆する研究もある。

2022年の研究によれば、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しむ人もペットに元気づけられるという。「私たちの研究では、PTSD介助犬を飼うことは、退役軍人のPTSD症状の緩和につながるだけでなく、怒りや社会的孤立の軽減、ストレスに対する回復力の向上にもつながることがわかりました」と米アリゾナ大学獣医学部の助教で、人間と動物の相互作用を専門とするケリー・ロドリゲス氏は説明する。

さらに、高齢者もペットの恩恵を受けられる。「ペットを飼うことで得られる安らぎは、高齢者をはじめ、友人や家族との親密な関係が希薄な人にとっては特に重要です」。イヌと散歩したり、公園を訪れたりすれば、高齢者も他者とのつながりが持てるとロドリゲス氏は話す。「社会的孤立を味わっている人にとっては、自宅でのイヌとのふれあいに加えて、こうした小さな社会的交流が本当に重要です」

利点が誇張されているケースも

このように広く認められている利点はいくつもあるが、ペットを飼うことが実際より高く評価されているケースもある。

「ペットを飼うことが健康にもたらす利点の科学的根拠は、一般に認識されているより玉石混交です」と米タフツ大学カミングス獣医学部の准教授で、人間と動物の相互作用を専門とするミーガン・ミューラー氏は話す。

例えば、米ウエスタンカロライナ大学の心理学名誉教授ハル・ハーツォグ氏によれば、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの間、ペットを飼っている人はそうでない人より幸せに暮らしていたと一部で信じられているが、必ずしもそうとは限らず、「ペットを飼っている人は総じて、そうでない人より幸せ」だと証明した研究は存在しないという。

ペットを飼うことの利点として最も誇張されがちなのは、うつ病患者への影響だろう。ハーツォグ氏は米誌「Psychology Today」のブログに執筆した記事で、ペットの飼育とうつ病の関連を評価した30の査読付き論文を調査したところ、そのうち18の論文はペット飼育者とそうでない人のうつ病発生率に「差がない」ことを示していたと結論づけている。ミューラー氏も「ペットの飼育は抑うつ症状の予測因子として特に信頼できるものではない」と考えている。

自分に合ったペットとよい関係を築く

しかし、学者たちの意見が一致している点が1つある。それは、ペットを飼いたい人は、自分にぴったり合うペットを選ぶことが極めて重要だという点だ。ペットの飼育が健康にもたらす利点は、飼い主とペットがふれあう方法によって決まる可能性が高いとミューラー氏は説明する。「人同士の関係と同じく、人生のパートナーがいるかどうかよりも、その相手との関係の質の方が、良好な結果をもたらすかどうかの指標になるでしょう」

つまり、個体、品種、種のすべてにおいて、適切なペットを選ぶ必要があるのだ。研究で圧倒的多数を占めるのはイヌやネコを飼うことの利点に関するものだが、魚類、モルモット、ウマ、さらには昆虫など、ほかの動物とのふれあいが健康にもたらす利点についても研究が進められている。

ミューラー氏はペットを選ぶ際に考えるとよい点として、自分の好きな活動、ペットの影響を受ける家族、かかる費用とかけられる額、自分の目標や目的、ペットの世話に費やせる時間などを考慮するよう助言している。

「森を歩くことが好きであれば、エネルギッシュなイヌ(ボーダー・コリー、ボクサー、ジャック・ラッセル・テリアなど)がぴったりでしょう」と氏は話す。「しかし、ペットとソファでくつろぎたいのであれば、静かなイヌやネコ、あるいは、モルモットのような小動物が向いているかもしれません」

どの動物を選ぶにせよ、自分がペットに与えた分だけ、その恩恵を得られるということを忘れてはいけない。

「ペットを飼うことの利益を最大限に得たいなら、ペットと一緒に過ごし、一緒に楽しむことができる活動に積極的に取り組むことです」とジー氏は述べている。

文=DARYL AUSTIN/訳=米井香織(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで10月2日公開)

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