2020/04/18 05:07 ウェザーニュース
春巻はなぜ、「春を巻く」食べ物なのでしょうか。歳時記×食文化研究所の北野智子さんに「春巻」の特徴や名前の由来などについて伺いました。
春巻の発祥の地は山東省で、中国料理の四大区分のなかでは北京料理に属しています。春巻のもとになった料理は「春餅(チュンペン)」といい、小麦粉で作った餅でニラ、ネギなどの野菜を包んだものだそうです。
「さらに歴史をさかのぼると、モンゴル民族が中国を支配した元王朝(1279-1368年)の宮廷で好まれた『巻煎餅(ギュンヂンペン)』にたどりつきます。水で溶いた小麦粉の生地を薄く焼き、クルミ・松・ハスの実や栗、羊肉に、蜜・砂糖・ショウガ・塩を合わせた餡(あん)を巻いて、油で揚げた料理です」(北野さん)
はじめ巻煎餅にはイスラム圏で好まれた羊肉が使われていましたが、漢民族の間に広まるにつれて豚肉が用いられるようになり、「春餅」と合わさっていまの春巻が形作られていったようです。
「春巻には、ニラ、ネギなど緑色の野菜が使われます。中国では、緑色の食物には冬の間に体に溜まった毒素の排出を行う肝臓の機能を高める効果があるとされています。そのため、緑色の春野菜をたくさん巻いた食べ物が、芽吹きの春を象徴する『春餅』、『春巻』と呼ばれたといわれています」(北野さん)
タケノコにも意味があるそうです。立春をはじめ、立夏、立秋、立冬のそれぞれの前の18日間は「土用」と呼ばれ、脾臓(ひぞう)にいいとされる黄色い物を食べる習慣もありました。それが春巻におけるタケノコにあたるのではと、北野さんは言います。肉はもちろん、力の源です。
「中国では旧暦が重んじられ、立春の日を『春節』と呼んで、新暦の正月以上に盛大に祝います。春餅、春巻は、日々の暮らしのなかに旧暦が息づく中国ならではの、春の訪れを祝う料理として伝承されてきたのだと思います」(北野さん)
日本には中国やベトナムの春巻のような食べ物は見当たりません。ただし、北野さんは「七草粥(ななくさがゆ)の習慣が似ているのでは」といいます。1月7日に「春の七草」と呼ばれるセリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロを摘み、粥に混ぜ込む料理です。
「青物が不足する冬に、新鮮な若菜の息吹を体に取り込みたいと願ったことが、春巻の発想と一致するのではと思います」(北野さん)
春に春巻を食べ、元気の源とするのはいかがでしょうか。
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