Sunday, July 12, 2020

『精霊の宿る川 日本で一番魚種が多い、沖縄県西表島の浦内川』 希少な魚多数、貴重な記録 - 琉球新報

『精霊の宿る川 日本で一番魚種が多い、沖縄県西表島の浦内川』笠井雅夫著 南山舎・2530円

 生物に関心のある人であれば、イリオモテヤマネコの存在でも有名な「西表島」のことを知っているだろう。しかし、浦内川をはじめとする島の河川にも、世界に誇れる貴重な自然・生物が見られることは、あまり知られていないのではないかと思う。本書は、そんな浦内川の姿を鮮明かつ美しい多数の写真で見せてくれる写真集である。

 著者の笠井雅夫氏は、1977年に西表島に移り住み、ダイビング業を営みながら島の水中写真を撮り続けてきた。だが、観光客増加による観光公害の懸念が増す中、浦内川で唯一の人工構造物・浦内橋の架け替え計画も動き出し、河川環境への影響が憂慮されることから、現在の健全な浦内川の姿を正確に記録し、多くの人に知ってもらうことを考えたという。

 書の副題にもあるように、浦内川で記録されている魚種数は、国内の河川では最多であり、絶滅危惧種と呼ばれるような希少魚種や大型魚種も多い。私自身、何度か浦内川の魚類調査に参加したことがあるが、その機会にぜひ見てみたいと憧れていた魚も多かった。実際の調査では、ほとんど見ることができなかったが、本書にはそれらの希少な魚も多数登場し、学術的にも貴重な記録となっている。

 近年では、デジタルカメラの普及で水中写真も手軽になったが、水の澄んだサンゴ礁域に比べると、マングローブが発達し、潮の干満の影響で濁りやすい河口域での撮影には苦労があったに違いない。ここで技術的な詮索(せんさく)をすることは避けるが、西表島に根を下ろし、自然の美を追い続けた著者だからこそ、このような写真を撮ることができたのであろう。

 本書で紹介しているのは、国内で最も尊いともいえる浦内川の、ほんの一部にすぎないかもしれない。しかし、河口から上流の、水中から河川周辺の美しい写真を見ていけば、浦内川の魅力と、自然の貴重さが誰にでも理解できるのではないかと思う。人の手がほとんど入っていない川に宿る精霊を、ぜひ、本書の中に感じていただきたい。

(下瀬環・西海区水産研究所)

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 かさい・まさお 1954年、兵庫県出身。77年から西表島に住み、ミスターサカナダイビングサービス、沖縄伝統建築の宿「琉夏」を経営する。日本自然科学写真協会会員。


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