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今月はじめの豪雨で被災した熊本県荒尾市の唐揚げ店が、半世紀以上の歴史に幕を閉じることになった。地元住民や観光客らに愛されてきた名店で、店主の松嶋一博さん(57)は「突然、こんな事態になるとは思いもしなかった」と唇をかみしめる。
閉店するのは、同市下井手の関川沿いにある松嶋精肉店。1966年に松嶋さんの父・故博幸さんが開業した。生肉も販売していたが、唐揚げが売り上げの8割以上。ショウガを効かせたしょうゆだれに漬け、先代から継ぎ足してきた鳥の脂を使った油で揚げた手羽先やモモ肉などが評判だった。
6日の豪雨で店内は1・2メートルほど浸水。鶏肉を揚げるフライヤーや肉を切るスライサーが壊れ、大切な油も水に漬かった。「油が味の決め手だった。簡単には再現できない」と松嶋さん。閉店を決め、店頭に張り紙を掲げた。近くの自宅も床上浸水。「今は目の前の状況に追われ、日々を暮らすことで精いっぱい」と肩を落とす。
店は、地域がかつて炭鉱で栄えた時代は仕事帰りの炭鉱マンでにぎわい、土日には遊園地帰りの客も多かった。クリスマスや盆休みは150キロ以上売り上げていたという。地域で長年親しまれてきただけに、再開を期待する声が常連客らから多数寄せられている。
「店と機材があれば、いつか再開できるかもしれない。お世話になった荒尾のどこかで、唐揚げを食べて喜ぶお客さんの顔がまた見られたら」。松嶋さんは、客からの予約を記していたノートを眺めがならつぶやいた。(樋口琢郎)
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