Saturday, April 18, 2020

おうちで外食気分 魚をふんだんに使ったブイヤベース - 読売新聞

いま、魚が安いそうだ。本当かどうかは知らない。

それぞれの場所でスーパーに出かけて行った何人かの友人からそう連絡があった。「だから魚を買ってみたら?」とは誰も言ってはいない。でも、僕は、勝手にこう捉える。お、それは「魚でも買いなさいよ」ということなんだなってね。一種の“妄想的拡大解釈”とでも言うのかな。あの彼女とかあの彼とかがさ、僕に何か魚料理を作ってよ~、とお願いしてくるんだよね。やるよ、やりますよ、やればいいんでしょう? なんて言いながら近所のスーパーへ。手あたり次第、魚を買ってきた。

たまにはこういうのもいいよね、と包丁をすべらせて魚のウロコを取る。頭を落とし、ワタを抜いて三枚におろす。だいたいでいい。刺し身にしようってわけじゃないからね。切り身で買った魚はそのままにしておく。

香味野菜を切っていため、魚のあらを加えてさらにいためる。焼きつけるような感覚で火を入れていき、あらの表面に火が入り始めたら、今度は残酷にも木べらでつぶしながらさらに炒めていく。だしを取るための準備だから仕方がない。僕はブイヤベースを作ろうと思っているのだ。

南仏のマルセイユで何度かブイヤベースを食べたことがある。あの感じを出したい……が、あの感じが思い出せない。僕は記憶力がかなり悪いのだ。そもそも、たいていのことに対して覚えておこうという気持ちが薄い。楽しい旅の途中で食べたおいしい料理の記憶ですら、おぼろげなのである。動画でも撮っておけばよかったのかもしれないが、そういうマメなことができる性格じゃないことは自覚しているし、そもそも撮った映像を改めて見る機会は僕にはなさそうだ。

白ワインを加えてグツグツ煮立ててアルコール分を飛ばし、水を注いで煮立てアクを引く。にんにく、セロリ、トマトを加えてさらに煮立て、アクを引き、煮込む。煮込みの半ばにスパイスを準備する。ブイヤベースといったら「サフラン」と「フェンネル」である。この二つさえそろっていれば、あとは何をしてもブイヤベースだと言い張ればいい。

あの場所にいた僕が5分の動画を撮影したら、帰国した後にその場にいない僕が5分間をかけて動画を見ることになる。1時間撮影したら1時間かけて見る。当たり前のことだ。24時間撮影したら、12か月間撮影したら、僕は、それらを見るために24時間費やし、12か月間費やすことになる。あれ? そんなことしていたら、僕は寿命の半分しか生きていないことになるじゃないか!

あるとき、そう気づいてしまったのである。そんなことなら、記録することは諦めて色んなことを忘れたままで生きていけばいいか。

ところが、グツグツとスパイスが煮込まれる鍋と向き合っていると、そこから香るサフランとフェンネルの香りが僕のかすかな記憶を呼び覚ましてくれたのだ。マルセイユで食べたブイヤベースの味わいは、磯の風味がしっかりしていて、濃厚で少し塩辛かった。バケットをひたしながら食べた。ルイユというニンニクの風味のするマヨネーズのようなものとチーズと、それからどっさりの魚。

カサゴとかホウボウとか、そう、とにかく色んな種類の魚がごった煮されているようなものだった。魚ってうまいんだなぁ、と思った。

目の前には、めばると真だらとかれいがある。主役はこの魚たちである。前半にあらで出汁を取ってスープにし、後半に身を煮て食べる。1尾まるごとを無駄にしない合理的な料理である。煮込んだ出汁はざるでしっかりこす。ぎゅうぎゅうと絞り取るように。香味野菜とあらはカスカスになる。その分、うま味のきいたスープができあがるのだ。

具となる魚はこのスープでさっと煮てもいいし、焼いたり、ソテーにしたり、蒸したりしてもいいかもしれない。鍋に一緒に入れてそのまま完成にしてもいいけれど、別々の器に盛り付けたほうが気分が出る。そういえば、最初にバケットとスープ、ルイユ、チーズでおなかを満たしてから魚に手を出すのがマルセイユで食べたスタイルだったような……。

さあ、できた! おーい、できたよ~。安くなった魚で作ったブイヤベースだよ~。教えてくれたみんな~。おーい、聞いてる~? 聞こえてる~? 返事がないな。ま、仕方がない。独りで食べるとするか。

◆ブイヤベース・マルセイユの記憶
【材料】
オリーブ油         大さじ2
玉ねぎ(スライス)     小1個(200グラム)
にんじん(千切り)     1/3本(50グラム)
魚のあら(水で洗っておく) 400グラム
白ワイン          100ミリリットル
水             1.5リットル
にんにく(つぶす)     2片
セロリ(適当に折る)    1/4本
トマト(ざく切り)     大1個
塩             小さじ2~大さじ1
ペルノー(あれば)     少々
サフラン          少々
フレッシュフェンネル    少々
めばる(切り身)      4切れ(200グラム)
真だら(切り身)      3切れ(200グラム)
子持ちかれい(切り身)   1切れ(200グラム)
【作り方】
鍋にオリーブ油を入れて中火で熱し、玉ねぎとにんじんを加えてほんのり色づくまで炒める。魚のあらを加えてつぶしながらいため、白ワインを注いで煮立てる。水を注ぎ、にんにくとセロリ、トマトを加えて煮立て、アクを引きながら中火で30分ほど煮込む。サフランとフェンネルを加えてさらに30分ほど煮込む。ザルを使ってエキスを絞るようにこす。鍋に戻して中火で熱し、アクを引いて塩で味を調整する。具にする魚をソースに加えて火が入ったら取り出し、ソースと別の器に盛る。できればルイユ、バゲットと共にいただく。

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水野仁輔
水野仁輔(みずの・じんすけ)
カレー&スパイス研究家

 1974年静岡県浜松市生まれ。99年に男性12人の出張料理集団「東京カリ~番長」を結成。各地で食のライブキッチンを開催するほか、世界のスパイス料理やカレーのルーツを探求中。著書は40冊を超え、近著に「水野仁輔 カレーの奥義」(NHK出版)、「スパイスカレー事典」(パイインターナショナル)、「いちばんやさしいスパイスの教科書」(パイインターナショナル)、「幻の黒船カレーを追え」(小学館)、「水野仁輔のスパイスレッスン」(中央公論新社)など。2016年にスパイスをレシピとともに届ける「AIR SPICE」を設立。

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